「忘れたって、あんたは保護者かつ担任なら、取りに帰る必要ないって言ったんだけどさ」
「聞かなかった、と」
「全く。なんだか知らないけど、まっすぐ育てすぎなんだよ」
進路調査票、それにどれだけの意味があるのか。
形式上、畏まって机に並べてるけど、他人事なのは何も僕だけじゃない。
風早だってそんな顔だ。
尤も、千尋が来れば、その顔はいつもの教師の顔に戻るんだろうけど。
それも含めて不愉快に過ぎる。
そして、幾ばくかのあとで、息急いた千尋が引き戸を開けた。
お待たせ、なんてまっすぐに
何の意味もない書類を、わざわざ取りに帰ってさ。
言ってやりたい、ほんと、出来るなら今すぐに
なのに僕の口から出る言葉は
風早が取り繕う様を奥底に隠して出す言葉は
「おかえり」
「早かったですね。体育祭のリレーの選手に、俺からも推薦しようかな」
今度もまた、出られるのかどうかは未知数の体育祭の話。
風早は、こともなげにそう言って笑う。
◇
と言ったわけで、午前中の30分を費やした僕にとって、
やはり進路相談なんかただの茶番にすぎなかった。
何故なら、行き先は既に決まってる。
遅かれ早かれどうしたってやって来る、
その“将来”は。
僕の思うところへ、思うがままに
君を連れて行ける時間は、もうそれほど長くは残されていないのかもしれない。
「千尋」
「ん?」
屈託ない顔で答えるけどさ。
「帰るのやめよ」
「え?」
「たまにはいいだろ、せっかく早めに終わったし、どこか行かない?」
自分でも驚くくらいに、すらすらと誘い文句が口をついた。
行き先のことなんか、何も考えてなかったってことは、
千尋の返答で思い知った僕だ。
「……どこかって? ミスドとか?」
「どこでもいい。やじゃなかったら、一緒に来れば?」
僕はそう言って踵を返した。
家とは逆の、駅の方向になる。
「……行く!」
なんでか、こんなにホッとする。
やじゃなかったら、なんて条件をつけたわりに
千尋がどう答えるか、そのことについて、
僕は少なからず緊張してたみたいだ。
なんか那岐千の病んだやつを書きたくなってですね
出口なく悶々とした中二な那岐千というのはわりとデフォルトだと思うんですけど、
なんでか今まで手を付けて来なかったんです。
10月か2月のオンリーで出せたらいいな〜と思ってます。
[2回]
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